利用者の PC から何が読まれたか ― お名前.com デスクトップクラウド事件の samples.zip とラボ実測

攻撃者とみられる者が公開した samples.zip(10 台分の作業ログ)を隔離環境で数え直しました。コピーの記録は 4,352 件。RDP のドライブ共有と DPAPI をラボで実測し、読めることと読めないことを分けます。

公開 検証済み 2026-10-26・隔離した仮想環境(REMnux / FlareVM / DefenderVM、外部と遮断)

目次
  1. はじめに
  2. samples.zip という物
  3. 読み方:件数だけを数える
  4. 集計:4,352 件のコピー
  5. いつ実行されたか
  6. ログの形から読めること
  7. ラボ実測①:RDP のドライブ共有
  8. ラボ実測②:DPAPI の壁
  9. メールの時刻は、2 通りに読める
  10. 分からないこと
  11. まとめ
  12. 出典
3 本の記事

この事件は 3 本に分けています。① 攻撃者サイトと公開物の検証、② この記事(利用者 PC から読まれたもの)、③ .rdp ファイルの読み方と、利用者がやること。

続報:GMO 第 7〜9 報(10/27 正午の予告まで)

続報:GMO 第 10〜16 報(10/29 夜まで)

お名前.com デスクトップクラウドは、FX の自動売買に使われていた、クラウド上の Windows です。利用者は自分の PC からリモートデスクトップ(RDP)で接続します。GMO インターネットグループは 10 月 20 日、一部のサーバーで第三者の不正なプログラムを確認したと発表しました。

攻撃者とみられる者は、自分のサイトで「VPS や利用者の PC から取ったデータ」として samples.zip を配りました。この記事は、その中身を件数と形式だけで読み直した記録です。ログが本物かどうかは確かめられません。攻撃者が自分で選んで出したサンプルだからです。

samples.zip という物

項目 値 区分
大きさ 235,002 バイト 本調査で確認
SHA-256 8f1b1174270b79e3faedac1f44626360006a753bbcdde850deea150093eada58 本調査で確認
中身 INFO.txt が 10 個(VPS 1 台につき 1 個) 本調査で確認
保存の記録 攻撃者サイトの data/samples.zip。Wayback Machine に 10 月 24 日 16:07(日本時間)の保存がある 本調査で確認

ネット上には「232,557 バイト」という値もあります。これは Wayback Machine の索引(CDX)にある length の値です。この値はファイルそのものの大きさではなく、gzip で圧縮して保存した記録の長さを表します。実際に取得したファイルは 235,002 バイトでした。同じ取得で、source.zip も索引の値(1,351,869)より実物(1,354,131)が大きく、ずれ方がそろっています。

読み方:件数だけを数える

ログには、利用者の PC 名、ユーザー名、ファイル名が入っています。そこで、次のように扱いました。

  1. ファイルは、外部と遮断した REMnux の中にだけ流し込む。ホストのディスクには書かない
  2. REMnux の中で、行頭の印([FILE]・[DIR]・[COPIED])と拡張子だけを数える
  3. 外に出すのは集計の数字だけ。ファイル名・パス・PC 名は画面に出さない
  4. 終わったら、生のファイルを消し、仮想環境を作業前の状態に戻す

集計:4,352 件のコピー

項目 件数
INFO.txt の数 10
総行数 16,731
一覧に出たファイル([FILE]) 10,891
一覧に出たフォルダ([DIR]) 974
コピーしたと記録されたファイル([COPIED]) 4,352

コピーの 4,352 件を拡張子で分けると、次のとおりです。

種類 拡張子ごとの件数 合計
PDF pdf 1,805 1,805
画像 png 867・jpg 573・jpeg 24 1,464
CSV csv 489 489
テキスト txt 227 227
Excel xlsx 203・xls 12 215
Word docx 92・doc 10 102
RDP 接続ファイル rdp 19 19
DB db 6・sqlite 4・mdb 3 13
JSON json 8 8
メール eml 2・pst 1・msg 1 4
鍵 key 3 3
PowerPoint pptx 3 3
合計 4,352

4,352 はこの 10 台のログに書かれたコピーの数です。全体の被害の数ではありません。攻撃者が選んだ 10 台が、ほかの利用者を代表しているかも分かりません。

.rdp が 19 件あります。利用者の PC に保存されていた接続ファイルです。.rdp には接続先とユーザー名が書かれるので、同じ利用者のほかの接続先まで知られた可能性があります。

いつ実行されたか

ログに書かれた実行時刻は、2026 年 10 月 14 日の 22:53:53 から 23:16:48 です。10 台のうち 7 台は、22:53:53 から 22:54:00 までの 7 秒に収まっています。残りの 2 台は 23:14:33 と 23:16:48 です。

ほぼ同じ秒に 7 台、という並びは、人が 1 台ずつ操作したのではなく、多くの VPS で一斉に自動で動いたと考えると自然です。これはこちらの読みで、確かめた事実ではありません。

ログにはタイムゾーンが書かれていません。VPS の時計が日本時間なら、GMO が利用者からの問い合わせで調査を始めた 10 月 19 日の 5 日前です。少なくともその時点で、VPS の中で何かが動いていたことになります。ただし、ログ自体が本物かどうかは確かめられていません。

ログの形から読めること

台ごとの差は大きく、コピーの記録は少ない台で 30 件、多い台で 1,155 件でした。どういう条件でコピーするファイルを選んだかは、ファイル名とパスを見ていないので分かりません。

ここからは、こちらの読みです。数えた記録は「一覧を作る」「コピーする」の 2 つの動きで、どちらもファイルを読むだけで済む操作です。利用者の PC に何かを入れなくても、VPS の側から、RDP で共有されたドライブを読めば同じ記録になります。次の節で、その仕組みをラボで確かめます。

なお、数えたのは上の 3 種類の行だけです。書き込みの記録がほかにあるかは、確かめていません。仮に記録がなくても、書き込まれていないとは言えません。サンプルは攻撃者が選んだ一部で、次の節で見るとおり、共有されたドライブには書き込みもできるからです。

ラボ実測①:RDP のドライブ共有

ログの読み方が正しいかを、自前のラボで確かめます。実在の被害者 PC は使いません。テスト用のマーカーファイルだけです。構成は、FlareVM を RDP サーバー、WSL の xfreerdp を接続元、REMnux を TCP の転送に使いました。

RDP でドライブ共有を有効にすると、サーバー側から secret.txt が見えることを示すコンソール。
図1:ドライブ共有あり。\\tsclient\test に接続元の secret.txt(18 バイト)が見えます。

共有しなければ、「ネットワーク名が見つかりません」。\\tsclient という名前自体がなくなります。

ドライブ共有なしのとき、ネットワーク名が見つからないと表示されるコンソール。
図2:共有なし。\\tsclient そのものが存在しません。

そして、書き込みもできます。読まれるだけでは終わりません。共有されたドライブのスタートアップに何かを置かれる、既存のファイルを差し替えられる、という可能性が残ります。

サーバーから接続元の共有に from_server.txt を書き込み、一覧に出ているコンソール。
図3:サーバーから from_server.txt(17 バイト)を書き込み、接続元にできています。

サーバーの側でも止められます。ポリシー fDisableCdm を 1 にすると、接続元が共有を求めても、サーバーの中には出てきません。

サーバー側のレジストリで fDisableCdm が 1 に設定されていることを示すコンソール。
図4:サーバー側のポリシー。fDisableCdm が 0x1。
サーバー側のポリシー fDisableCdm=1 で共有が遮断され、ネットワーク名が見つからないと表示されるコンソール。
図5:fDisableCdm=1 で遮断。共有を求めても、共有しない場合と同じ文言になります。

共有が見えるのは、RDP でつないでいる間だけです。ログの 10 台は、その時刻に VPS へ接続していた利用者だと考えられます。

ラボ実測②:DPAPI の壁

「Chrome の Login Data をコピーされたから、保存パスワードが全部読まれた」と言われがちです。でも、ファイルをコピーしただけでは、全部は読めません。中のパスワードは、Windows のユーザーに結びついた DPAPI という仕組みで暗号化されています。

DefenderVM で暗号化したデータを、FlareVM にコピーして復号を試しました。

別PCでDPAPIの復号を試すと Key not valid for use in specified state と表示されるコンソール。
図6:Key not valid for use in specified state. 別 PC では復号できません。

ファイルだけを持ち出しても、別の PC では読めない。ここは、過度に怖がらなくていい部分です。

ただし、これはファイルだけを持ち出した場合の話です。不正なプログラムが、利用者の PC の上で、そのユーザーとして動けば、DPAPI はふつうに復号します。共有されたドライブには書き込みもできるので、その入口がなかったとは言えません。「読めない」と「安全」は別です。保存パスワードは変えてください(手順は③の記事)。

メールの時刻は、2 通りに読める

時刻の話をひとつ足します。攻撃者のサイトには、GMO あてのメールの画像(Gmail の画面)が 25 枚ありました。最初の 2 枚の表示は、10 月 21 日の 2:55 AM と 5:07 AM です。Gmail は見る人の設定したタイムゾーンで時刻を出すので、これが日本時間で何時かは、画像だけでは決まりません。

読み方 日本時間 合うもの
UTC と読む 11:55 と 14:07 攻撃者サイトの時系列「11:55 に URL を送付」「14:00 に追加メール」。GMO が公表した要求文書の時刻(10 月 21 日 11:57)とも 2 分差
米国中部の夏時間(UTC−5)と読む 16:55 と 19:07 1 枚目の本文「本日 17:00 から」「さらに 2 時間後」。1 枚目は「我々が送ったメールは、すでに届いているはずだ」とも書いており、先に別のメールがあったことになる

どちらにも根拠があり、決め手がありません。元のメールのヘッダーがないからです。1 枚目に要求額は写っていないので、GMO の言う 11:57 の文書と同じメールかどうかも分かりません。この記事では、どちらとも決めません。なお、タイムゾーンの設定は自由に変えられるので、どちらでも、攻撃者の居場所の証拠にはなりません。

分からないこと

  • ログが本物か。攻撃者が作って選んだ物で、改変されていないとは言えません
  • 10 台がほかの利用者を代表しているか。全体で何台が読まれたか
  • コピーされたファイルが、実際に外へ送られたか。ログにあるのはコピーの記録までです
  • 利用者の PC に、実際に書き込みがあったか
  • VPS にどうやって入ったか。攻撃者は自分のサイトで「VPS 群が Active Directory の 1 つの環境でつながっていて、ある VPS から別の VPS へ移れた」と主張しています。さらに、全 VPS に共通の管理者権限のアカウントがあり、サポート担当者が利用者の PC に接続したとき、利用者側がその認証情報を取り出せる状態だった、とも主張しています(10/24 の投稿)。どちらも攻撃者の主張で、GMO は触れておらず、こちらでも確認できていません。GMO は侵入経路を調査中とし、原因を公表していません(第 6 報まで)
更新 2026-10-29第 16 報(10/29 20:50 時点)でも、GMO は侵入経路と原因を公表していません。調査結果が公表される保証はなく、攻撃者の主張は確かめられないまま残るかもしれません(続報)。

まとめ

  1. samples.zip は 235,002 バイト。中身は 10 台分の作業ログで、ファイルの実物は入っていない
  2. ログにあるコピーは 4,352 件。多いのは PDF(1,805 件)と画像(1,464 件)
  3. 7 台がほぼ同じ秒に動いている。人の手ではなく、一斉の自動実行と読むのが自然
  4. 手口は RDP のドライブ共有。ラボでは、読み取りも書き込みもできた。サーバー側の fDisableCdm で止められる
  5. Login Data は、ファイルだけなら別 PC では読めない。ただし「読めない」と「安全」は別

自分の .rdp の確かめ方と、利用者がやることは、③の記事にまとめました。

掲載しない URL攻撃者サイトへの誘導と誤接続を防ぐため、対象ドメインを含む URL は掲載しません。

出典

  1. GMO インターネットグループ 第 1 報(お名前.com)www.onamae.com/news/article/11584
  2. 同 第 4 報group.gmo/info/alert/20261024/
  3. 同 第 5 報group.gmo/info/alert/2026102402/
  4. 同 第 6 報(2026-10-26 21:00 時点)group.gmo/info/alert/20261026/
  5. 代表ブログ(2026-10-25、10-26 追記。要求文書 10/21 11:57)www.kumagai.com/?eid=19600
  6. Common Crawl:CDX の length は gzip 圧縮した WARC レコードの長さblog.commoncrawl.org/errata/no-truncation-indicator-in-warc-records

確認日 2026-10-26