目次
この事件は 3 本に分けています。① 攻撃者サイトと公開物の検証、② 利用者 PC から何が読まれたか、③ この記事(.rdp の読み方と、利用者がやること)。
お名前.com デスクトップクラウドは、FX の自動売買に使われていた、クラウド上の Windows です。利用者は、自分の PC からリモートデスクトップ(RDP)で接続します。そのとき使うのが .rdp ファイルです。
攻撃者とみられる者は 2026 年 10 月 24 日、自分のサイトに .rdp をメモ帳で開いた画像を載せ、「GMO が配布したファイルでドライブの共有が最初から有効だった。だから利用者の PC に入れた」と主張しました。GMO の発表は、この点に触れていません(第 6 報まで)。画像が配布物そのものかどうかも確かめられていません。
それでも、.rdp の読み方を知っておく意味はあります。ドライブを共有したまま接続すると、接続先から自分の PC のファイルを読まれ、書き込まれることは、ラボで確かめました(②の記事)。
.rdp はテキストの設定ファイル
.rdp は、接続先と接続のしかたを書いたテキストファイルです。1 行に 1 つ、名前:型:値 の形で書きます。型は、s が文字列、i が数値です。
この事件にかかわる行は、次の 4 種類です。値の意味と既定値は、Microsoft の一覧によります。
| 行 | 意味 | 既定値 |
|---|---|---|
drivestoredirect:s:(値が空) |
手元のドライブは接続先に見せない | 空(見せない) |
drivestoredirect:s:* |
手元のドライブを全部、接続先に見せる。接続中に挿した USB メモリなども対象 | — |
redirectclipboard:i:1 |
手元でコピーした内容を、接続先でも貼り付けられるようにする | 0(使わせない) |
redirectprinters:i:1 |
手元のプリンターを、接続先から使えるようにする | 0(使わせない) |
authentication level:i:0 |
接続先が本物か確かめられなくても、黙ってつなぐ | 3(指定なし) |
drivestoredirect が共有するのは、PC に固定されたドライブ、USB などの取り外せるドライブ、そしてネットワークドライブです。会社の共有フォルダーをドライブとして割り当てていれば、それも接続先から見えます。
攻撃者が見せたファイルの中身
攻撃者サイトの画像を保存し、写っている行を 1 行ずつ数えました。画像は winposstr の行から始まり、drivestoredirect:s:* の行で終わる 35 行です。接続先とユーザー名は黒く塗られています。上の 4 種類が出てくる位置を書き出すと、次のようになります。
| 画像の何行目か | 値 | 既定値と比べると |
|---|---|---|
| 15 | redirectprinters:i:1 |
既定の 0 から変えてある。手元のプリンターを渡す |
| 18 | redirectclipboard:i:1 |
既定の 0 から変えてある。手元のコピー内容を渡す |
| 20 | drivestoredirect:s: |
既定のまま。ドライブは渡さない |
| 23 | authentication level:i:0 |
既定の 3 から変えてある。接続先を確かめられなくても黙ってつなぐ |
| 35 | drivestoredirect:s:* |
ドライブを全部渡す。画像の中で、赤い四角で囲まれているのはこの行だけ |
つまり、1 つのファイルの中で、ドライブについての指定が食い違っています。20 行目は「渡さない」、最後の 35 行目は「全部渡す」です。
同じ行が 2 つあると、どちらが効くか
Microsoft の資料には、同じ名前の行が 2 回あるときの扱いが書かれていません。ソフトによって違う可能性があります。
| ソフト | 2 行あるとき | 根拠 |
|---|---|---|
| FreeRDP(3.32.2) | 後の行で上書きする。この画像なら「全部共有する」 | ソース client/common/file.c の freerdp_client_rdp_file_set_string。同じ名前の値があると、前の値を捨てて後の値を入れる |
| Windows 標準の「リモート デスクトップ接続」 | 未確認 | Microsoft の資料に記載がない。こちらでも再現していない |
FreeRDP には、もう 1 つ癖があります。drivestoredirect:s: のように値が空だと、FreeRDP は「指定なし」として読み飛ばします。Windows の「共有しない」とは扱いが違います。どちらにしても、1 つのファイルに逆の意味の行を 2 つ置かないのが確実です。
自分の .rdp を、接続せずに点検する
手元の .rdp は、ダブルクリックしないでください。開くと接続が始まります。次の 2 つの方法なら、接続せずに中身を見られます。
メモ帳で見る
- エクスプローラーで
.rdpの右クリックメニューを開き、「プログラムから開く」でメモ帳を指定する - メモ帳の検索(Ctrl + F)に
drivestoredirectと入れ、「次を検索」を最後まで繰り返す。見つかった行が 2 つ以上ないか、コロンの後ろが空か*かを確かめる redirectclipboard・redirectprinters・authentication levelも、同じやり方で値を確かめる
Windows がどう読んだかを見る
2 行あるときに Windows がどちらを使うかは、自分の PC で確かめられます。mstsc /edit は、接続せずに設定画面を開くコマンドです。
- Win + R を押し、
mstsc /edit "ファイルの場所\ファイル名.rdp"と入れて Enter - 「オプションの表示」→「ローカル リソース」→「詳細」を開く
- 一覧の「ドライブ」にチェックがあるかを見る。チェックがあれば、その PC は共有する設定として読んでいる
- 「接続」は押さずに、右上の × で閉じる
書き換えるなら
今後も RDP を使うなら、メモ帳で次のように書き換えて保存します。
drivestoredirectの行をすべて消し、drivestoredirect:s:(値は空)を 1 行だけ書く。1 行だけ直すと、残ったもう 1 行が効くことがあるredirectclipboard:i:0にする。パスワードをコピーして貼る人は、特にredirectprinters:i:0にするauthentication level:i:2にする。認証に失敗したら警告が出て、接続するかを選べる
書き換えたあとも、上の「Windows がどう読んだかを見る」で、「ドライブ」のチェックが外れていることを確かめてください。
Windows を最新にしておくことも効きます。Microsoft によると、2026 年 4 月のセキュリティ更新から、.rdp を開くと接続前に確認画面が出て、ファイルが求める共有(ドライブなど)は既定ですべてオフになりました。確認画面で「ドライブ」にチェックを入れなければ、共有されません。
サーバーを管理する側は、サーバーのポリシー fDisableCdm でドライブの共有そのものを止められます(②の記事でラボ実測)。
デスクトップクラウドにつないでいた人がやること
攻撃者とみられる者は 10 月 24 日付けの声明で、GMO が 27 日正午(日本時間)までに 100 万ドルを払わなければ、利用者の自宅の PC を暗号化し、持ち出したデータを公開すると書きました(攻撃者サイトの保存版で確認)。期限の前か後かで、やることは変わりません。予告どおりに動く保証も、期限を守る保証もないからです。期限が過ぎて何も起きていなくても、PC の中に何かが置かれていないとは言えません。
- パスワードを変える。FX の取引に使っていない端末(スマホなど)から、メール、FX 口座と MT4/MT5、ブラウザに保存していたものの順に変える。GMO も第 5 報で「FX取引に使用していない端末(スマートフォンや別のPC等)から」と案内しています
- ログイン中のセッションを切り、2 段階認証を入れる。パスワードを変えても、ログイン済みのセッションが残ることがある
- ウイルス対策ソフトでフルスキャンし、データをバックアップする。GMO が第 5 報・第 6 報で利用者に求めていることです。ただし、RDP の共有で読まれただけなら、スキャンで見つかる物は残りません
- PC のスタートアップとタスク スケジューラを見る。共有されたドライブには書き込みができる。Win + R →
shell:startupで開くフォルダと、タスク スケジューラに、見覚えのない物がないかを確かめる - GMO の調査に協力するかを決める(任意)。GMO は第 6 報で、不正な操作があった可能性のある利用者に、接続に使っていた PC を調査のために貸してほしいと呼びかけています。調べる範囲や返却の方法は、事前に確認書で示されます。協力するなら、初期化は PC が戻ってからにしてください。GMO がパスワードや認証コードを尋ねることはありません
- できれば、PC を初期化する。自分で作った文書や写真だけを USB メモリなどに逃がし、
.exe・.bat・.lnk・圧縮ファイルは移さない。初期化は「すべて削除する」を選ぶ。これはこちらの推奨で、公式の案内ではありません - 手元の
.rdpは、接続に使わない。残しておくなら、上の手順で点検だけする
攻撃者を名乗る連絡が来たら
- 開かない。リンクと添付を押さない
- 返信しない。払わない
- ファイルを送らない。攻撃者は利用者に「
.rdpを保管して訴訟の証拠に」と呼びかけましたが、そうした呼びかけに応じてファイルを渡す必要はありません - メールや画面は消さずに残し、警察のサイバー事案の相談窓口に相談する。PC を調べてもらうなら、初期化の前に
- 家族や職場に「自分の名前で変なメールが来ても開かないで」と伝えておく。攻撃者の声明には、払われなければ閲覧履歴などを、利用者のメールの連絡先にいる知人や家族、仕事の相手に送る、とありました
分からないこと
- 攻撃者の画像が、GMO の配布したファイルそのものか。GMO の発表は触れていません
drivestoredirectが 2 行あるとき、Windows 標準の接続ソフトがどちらを使うか- VPS にどこから入られたか。攻撃者は自分のサイトで「VPS 群が Active Directory の 1 つの環境でつながっていて、ある VPS から別の VPS へ移れた」と主張しています。さらに、全 VPS に共通の管理者権限のアカウントがあり、サポート担当者が利用者の PC に接続したとき、利用者側がその認証情報を取り出せる状態だった、とも主張しています(10/24 の投稿)。どちらも攻撃者の主張で、GMO は触れておらず、こちらでも確認できていません。GMO は侵入経路を調査中とし、原因を公表していません(第 6 報まで)
まとめ
.rdpはテキスト。drivestoredirectが空なら共有しない、*なら全ドライブを共有する- 攻撃者の画像には、逆の意味の
drivestoredirectが 2 行あった。FreeRDP は後の行を使う。Windows は未確認 - 点検はメモ帳か
mstsc /editで。ダブルクリックはしない - 直すなら、
drivestoredirectの行をすべて消して空の行を 1 つだけ書く - 期限の前でも後でも、パスワードの変更と PC の点検をする
出典
- Microsoft Learn「Supported RDP properties」(`drivestoredirect` ほか)learn.microsoft.com/en-us/azure/virtual-desktop/rdp-properties
- Microsoft Learn「Understanding security warnings when opening RDP files」(2026 年 4 月の更新)learn.microsoft.com/en-us/windows-server/remote/remote-desktop-services/remotepc/understanding-security-warnings
- Microsoft Learn「mstsc」(`/edit`)learn.microsoft.com/en-us/windows-server/administration/windows-commands/mstsc
- FreeRDP 3.32.2 `client/common/file.c`github.com/FreeRDP/FreeRDP/blob/3.32.2/client/common/file.c
- GMO インターネットグループ 第 4 報group.gmo/info/alert/20261024/
- 同 第 5 報group.gmo/info/alert/2026102402/
- 同 第 6 報(2026-10-26 21:00 時点)group.gmo/info/alert/20261026/
確認日 2026-10-26